松田和道

静岡大学大学院 工学研究科 システム工学専攻
前田研究室所属 松田和道
「リスクコミュニケーションのための情報共有支援システム」
 

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本研究で構築した情報共有支援システムへは こちらからアクセスできます。
URLは“http://dss.sys.eng.shizuoka.ac.jp/ecs_html/”です。 

1.研究の背景と目的
現在、静岡県では東海地震の発生が危惧されている。そのため、地震防災に関する対策の強化が図られており、 地震などの地域リスクに対して、リスクマネジメントやリスクガバナンス(リスクコミュニケーションを通じた リスクの社会的な協治)を行う必要性が指摘されている。
松田は、静岡県島田市で行われているリスクマネジメントの問題状況を調査・分析し、改善方法を検討しており、 利害関係者間での情報や意見のやり取りの不足からリスクに対して十分な対策が取られていないなど、 リスクコミュニケーション、情報共有の必要性を指摘している。
島田市では防災科学技術研究所と島田市が共同で、地域の様々なリスクを管理・軽減するための情報共有のあり方について 調査・研究を行っている。この研究はインターネット上に「eコミュニティしまだ」と 呼ばれるコミュニティサイトを開設し、これを対象に行っている。eコミュニティしまだでは市民の活動を支援し、 人と人を結びつけることで、リスクコミュニケーションを行うことができる関係作りを支援している。参加しているコミュニティ の活動を結び付け、リスクコミュニケーションを支援するために、情報を共有していく必要がある。
そこで、本研究では島田市で行われているリスクコミュニケーションを支援するために、eコミュニティしまだにおける情報の 共有を支援することを目的とする。
研究方法は、まず、eコミュニティしまだの現状を分析し、情報共有支援システムの設計を行う。 そして、決定に基づいてシステムの構築を行う。

2.eコミュニティしまだ
eコミュニティしまだは、地域の人々、NPO、地域の企業、島田市役所、慶応義塾大学、静岡大学、東海大学、防災科学技術研究所など 多様な背景を持った人々が協力する「島田市eコミュニティプラットフォーム研究会」の運営の下、2004年12月24日に開始した。 これはICTを用いて地域の様々な活動を支援するコミュニティサイトである。地域の人々はグループ単位で登録(無料)することで ホームページを持つことができ、blogやWebGISを用いて情報を発信できる。
eコミュニティしまだでは、リスクコミュニケーションを行うことができる関係作りを支援しており、参加している人々やコミュニティを 結びつける取り組みを行っている。しかし、記事の独立、コミュニティ間の連携の不足などが問題となっている。記事間の関係や コミュニティ間の関係を可視化することができれば、記事を結びつけ、コミュニティを結びつけることができ、情報の共有が可能になると考えられる。

3.情報共有支援システムの設計と構築
3.1 可視化による情報共有支援
2章で情報の可視化が有効であると考えた。活動を結びつけるために可視化する記事の関係としては、類似関係やトラックバックが考えられる。
気になる記事や気になるキーワードから類似する記事を可視化することができれば、自分の記事に類似する記事、自分の興味のある記事に類似する 記事を見つけることができ、さらにそのつながりから複数のコミュニティの記事をたどることが可能になる。また、コミュニティ間の関係も可視化され、 記事のつながりから活動内容や興味のある話題などの特徴が発見でき、活動内容や興味に共通点を持つコミュニティを発見できる。トラックバックでは、 自分の記事に興味を持ってくれているコミュニティを発見することができると考えられる。このように情報を共有することができれば、活動内容や興味に 共通点を持つコミュニティや自分の活動に興味を持ってくれているコミュニティを知ることができ、活動の連携や情報のやり取りを支援することが 可能になると考えられる。

3.2 TouchGraphとGETAの応用
3.1節で示した可視化を満たすことができるプログラムの1つとしてTouchGraphと汎用連想計算エンジンGETAを使用してシステムの構築を行う。
TouchGraphは、グラフィックベースでデータを表示するJavaプログラムである。Java appletとして利用できるため、Webブラウザでの表示が可能であり、 グラフに対してユーザが操作可能である。
GETAは、大規模かつ疎な行列を扱う、サーバ側で動作する計算エンジンである。マルチユーザOSであるUNIX系での利用を考えて構築されており、 ネットワークを通じて複数のPCから作業をすることができる。また、GETAはC言語ライブラリであるが、Perlモジュールが用意されているため、 CGIを用いてGETAの計算結果を動的にWebページへ反映することができる。文書の分析では、行列の行に文書、列に単語が割り当てられ、 文書間の類似度、単語間の共起度を計算する。

3.3 eコミュニティしまだのデータ構造
eコミュニティしまだは、XOOPSと呼ばれるCMS(コンテンツマネジメントシステム)を用いて構築されている。また、メインコンテンツのblog機能は WordPressと呼ばれるblogモジュールを使用して提供されており、RSSとして公開されているため、RSSを利用して記事データの取得を行う。

3.4 情報共有支援システム
3.2節で示したGETAとTouchGraph、3.3節で示した記事データを使用して、3.1節で示した情報共有支援システムに必要な要素を満たす可視化を実現する システムの構築を行った。図1が構築したシステムの概要、図2がユーザインターフェースである。


図1:情報共有支援システムの概要 


図2:情報共有支援システムのUI 

 ユーザはWebブラウザを使用する。本システムの主となる検索機能は、(1)画面上側にあるテキスト入力フォームにキーワードを入力して記事を検索する、 単語→記事連想検索、(2)同じテキスト入力フォームに記事URLを入力して類似する記事を検索する、記事→記事連想検索、(3)画面下側のTouchGraphから 表示されている記事を選択して類似する記事を検索する、記事→記事連想検索がある。ユーザからの検索要求をサーバは受け取り、GETAで類似する記事を 計算する。そして、計算から求められた記事をTouchGraphでグラフとしてWebブラウザに表示する。
TouchGraphはノードと枝で構成されており、ノードには記事タイトル、ポップアップでコミュニティ名と作成日が表示される。表示されるノードはGETAによって 計算された類似度が高い記事、最大30件である。枝はトラックバックの枝(赤色)と類似関係の枝の2種類があり、類似関係の枝は、近接度によって3段階 (高い順に緑色、水色、灰色)に分けられる。近接度の式を以下に示す。
枝は、全てのノードが連結するまで生成される。
記事データの取得はRSSを取得することで、1回/日、自動で行われる。RSSでは最近の記事しか取得できないため、古い記事データはhtmlとして取得する。

4.結果及び考察
キーワード「地震」で検索した結果を図3に示す。
赤枠で囲まれた①の記事は、タイトルからは地震に関する記事であるということは判断できないが、中身はとても興味深い内容であった。風呂敷の活用法 としてこのコミュニティでは、ごみ対策に注目しており、さらに防災対策にも利用できるという内容であった。コメントもトラックバックもなく、このまま たくさんの記事の中に埋もれてしまう可能性もあった記事を発見することができた。また、このコミュニティが防災にも関心があることがわかった。
赤枠で囲まれた②の記事の周りには、地震の影響があった、あるいは影響がありそうな場所についての記事がまとまって表れている。これらの記事は同じ テーマにそって同じ時期に投稿された記事ではなく、2つのコミュニティで、異なる時期(2005年12月~2006年5月)に散発的に投稿されたものである。 この記事の集まりは、複数のコミュニティが共通の話題で繋がり、時期の異なる記事にも繋がりがあることを示している。


図3:キーワード「地震」で検索した結果 

 このようにして本システムを使用して評価を行い、以下の結果を得た。記事・コミュニティの繋がりを可視化できており、eコミュニティしまだで活動 している人々、コミュニティを結びつけることを可能にする情報共有支援を行うための重要な要素が達成された。また、複数のコミュニティの記事の 繋がりを可視化することで、様々なコミュニティへの関心を高めることができる可能性がある。本システムでは、古い記事と新しい記事の繋がりも 可視化することができるため、気がつかなかった面白い記事を拾い出すことを可能にしている。入力したキーワードに関連する記事だけでなく、 入力したキーワードに関連するキーワードに関連する記事も表示できることによって、関連のある幅広い記事を提供し、新しい繋がりの発見や、 興味を生み出すことを助けると考えられる。

5.結論
本システムの利用によって、eコミュニティしまだで活動している人々、コミュニティを結びつけることを可能にする情報共有支援が可能である という可能性を示すことができた。今後、本システムを利用することで人々に繋がりが生まれ、コミュニティの活動に連携が生まれ、 リスクコミュニケーションの支援に繋がるなどの効果が表れることを期待する。

“今後の課題”
eコミュニティしまだで活動している人々の要求に、より適したシステムにしていくために以下の課題が考えられる。ユーザによる自由な検索を可能 にするために、検索条件を設定して検索が行えるようにすることが望まれる。また、枝の視認性の改善として、指定した種類の枝をまとめて表示・非表示 にするなどの機能もあるとよいと考えられる。記事間の関係を把握するために、記事間で共有しているキーワードを表示できると、より類似関係を把握 することができるようになると考えられる。