井田国宏

「環境ボランティア獲得の為の情報システムの開発 ~佐鳴湖ヨシ刈りを例として~」
 

静岡大学大学院工学研究科システム工学専攻 前田研究室所属
井田国宏

 

 

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1.背景及び目的

現在、地球温暖化に対する意識の高まりなどに応じて、環境活動に参加したい人は増加していると考えられる。 しかし、市民団体においてはスタッフの不足が従来から指摘されており、市民活動の永遠の課題となっている。 このように、ボランティア希望者と環境活動等のボランティアを必要としている活動の間には、大きなギャップが 存在している。

これらのボランティアの需要と供給の不釣り合いを解消し、活動への市民参加を促進することを目的とした研究を行う。 本研究では佐鳴湖で行われている佐鳴湖ヨシ刈りを具体的事例とし、有効に働きかけるための広報の方法、 広報を行う場所といった情報提供戦略の検討を行う。また、検討した情報提供戦略を基に、ボランティアの 人材情報管理や様々な情報を発信、意見交換等を行うことができる情報システムを構築する。

 

2.佐鳴湖ヨシ刈り

佐鳴湖浄化対策の一つとして、佐鳴湖湖岸へのヨシの人工植栽がある。 これは、佐鳴湖固有種であるヨシにリンや窒素を吸収させ、佐鳴湖浄化を狙うものである。 しかし、植栽したヨシは適切な時期に適切な量を刈り取る必要があり、現在は、市民グループ「佐鳴湖ネットワーク会議」 が主催し、ボランティアの協力によって、年2回(6月、10月)実施されている。しかし、毎回の刈り取りにはボランティア の確保に苦労している。この刈り取ったヨシは、動物園へ飼料として、茶畑や家庭菜園へ敷料や肥料として提供されている。

 

3.研究方法

本研究では、活動に関心を持っているがまだ行動に至っていない層を引き込むことを目的としている。 このような人たちに対して有効に働きかけるための情報提供戦略を検討する。国立環境研の森らは2007年8月 にWEB調査を行い、ヨシ刈りを含む環境ボランティアに対する浜松市民の参加傾向について調べた。 その結果を基にヨシ刈り活動の潜在的希望者の多くが持っている趣味等を把握する。 それらを受け、井田がヨシ刈りのチラシ配布調査や参加者アンケート調査を実施し、どのような広報が 効果的かという情報提供戦略を検討する。この情報提供戦略に基づいて佐鳴湖での様々な活動を支援することが できる情報システムを構築する。

 

4.機会理論

本研究はボランティア機会理論を基としている。 この理論は森他[*]によるものであり、ボランティアの参加動機は通常の財・サービスとは異なり、 基本的に参加機会さえあれば人はボランティアに参加すると考える。 この理論に従えば、その人に応じた適切な機会を提供することがボランティア募集においては重要となる。 本研究では、この機会理論を基として、効果的であると考えられる広報を検討し、市民に的確に参加の 機会を提供することを目指す。

 

5.広報の可能性の検討
5-1.ヨシ刈り参加者アンケート調査

ヨシ刈り参加者の特性を把握するため、参加者に対するアンケート調査や参加者募集のチラシ配布調査 を実施し、効果的な広報の方法を検討した。 まず、2007年6月、10月に実施されたヨシ刈り参加者に対してアンケート調査を実施した。 設問項目は、活動を知った経路、参加による佐鳴湖の環境問題やヨシについての関心の変化、 次回のヨシ刈りへの参加意欲、ヨシ刈り以外の活動への参加意欲等である。

解析した結果、6月、10月のアンケートから共に同様の結果を得た。 図1は、次回ヨシ刈り(問A)と他の参加してみたい活動(問B)の参加意欲についてクロス分析した結果である。 参加者のほとんどが次回ヨシ刈り、他の活動ともに積極的な態度を示しており、 佐鳴湖での各活動間で連携を持ち、協力した広報を行うことが重要であると考えられる。 また、活動に参加した理由では、「環境保全」のためという回答の他に、「自然や人々との触れ合い」 「仲間が広がりそう」という理由での参加者も少なくはない。また、今回の活動を、所属する会社や団体、 知人からの誘い等で知った参加者が多く、身近であり、直接的なネットワークによる広報が効果的である 可能性がある。


図1:関心の変化と次回の参加意欲

5-2.チラシ配布調査

森によるWEB調査の結果を受け、ヨシ刈りに関心のある人の多くが、水上スポーツや山歩き、 博物館・美術館めぐりなどの趣味を持つことが明らかになった。 この結果から、これらの趣味を持ち、ヨシ刈りに関心のある人が多く訪れると考えられるアウトドアショップ、 美術館・博物館、対照として、これらの趣味とは関係のないスポーツ店、ペットショップの 計16箇所にチラシを設置し、配布状況を調査した。 アウトドア店や博物館・美術館では多くのチラシを配布することができた。 また、大型のスポーツ店でも多く配布することができたが、これは様々な趣味を持つ人が多く 訪れたためであると考えられる。 また、これらのうちでも佐鳴湖周辺の施設では特に多くのチラシを配布することができた。 調査結果より、これらの場所が広報を行うには有効であると考えられる。

5-1、5-2より広報の際に留意すべき点を以下に示す。

 

  • 直接的なネットワークを利用した広報を行う
  • 各活動間で連携を持ち、協力した広報を行う
  • 「環境保全」以外の点に関してもアピールする
     

    また、場所として以下が効果的であると考えられる。
     

  • 佐鳴湖近辺の施設や店舗
  • アウトドアショップ、博物館・美術館
  • 様々な趣味を持つ人が多く集まる場所
  • 自治会の回覧板
     

    6.情報システム「佐鳴湖グループ」の構築・試験運用

    第5章を受け、ボランティアを獲得する為の情報システム「佐鳴湖グループ」を構築した。 「佐鳴湖グループ」は、佐鳴湖で活動する非常に多くの団体が所属する佐鳴湖NW会議を主な利用対象としている。 活動趣旨や対象者が様々である各活動に合わせたサイトデザインや機能を実現するため、 活動別に7個のコミュニティサイトを設けた。 また、直接的であり、各活動間で連携をもった広報が重要であったことから、各活動班から情報を発信し、 それらを他の活動班でも共有できるシステムを構築する。 様々な趣味を持つ人を獲得するため、外部のWebサイトやシステムと相互に連携を持ち、 多くの利用者を獲得することをねらう。 これらの機能と合わせて、実施しているボランティア活動をまとめて表示する機能を設けたことで、 多くのボランティアを獲得できると考えられる。 また、主催者だけでなく、一般参加者からも情報を発信できる情報システムを構築する。 情報システムの構築にはCMSソフトウェアXOOPSを用いる。 上述したような情報システムを目指し、表1の機能を実装した。 また、これが構築した情報システムである。

    「佐鳴湖グループ」を構築後、2008年1月7日より試験運用を実施した。 試験運用の対象者は佐鳴湖NW会議メンバー・所属団体、共同研究者らであり、広くレビュー、コメントを募集した。 また、これらのコメントをもとに情報システムの修正を随時行った。

    情報システム「佐鳴湖グループ」により、活動主催者や参加者がブログ記事や活動写真等を投稿することで、 佐鳴湖周辺で行った活動の、様々な立場からのリアルタイムな情報発信が可能になった。 また、ニュース機能を実装したことにより、各活動の情報を容易に発信し、それらの更新情報を ヘッドライン機能を用いて各活動間で共有することが可能になった。 加えて、アクセス解析機能や人材情報収集・蓄積機能を設けたことにより、今後これらを細かく解析することで、 効果的な広報を検討するきっかけになると考えられる。

    表1:「佐鳴湖グループ」実装機能
    外部仕様
    ユーザ登録、ログイン
    ニュース機能(センター会議、各活動班からのお知らせ)
    ヘッドライン機能(他の活動班の更新情報をまとめたもの)
    カレンダー機能(予定をカレンダーで表示)
    掲示板機能(掲示板、情報交換・交流の場)
    ブログ機能、アルバム機能(日記、活動風景・写真の表示)
    リンク機能(各コミュニティサイトへのリンク)
    情報システム「佐鳴湖グループ」の説明
    活動しているボランティアをまとめて表示する
    アクセス解析、人材情報収集機能(人材情報を獲得・蓄積)
    外部リソースの説明へのリンク
    アンケートを実施


    7.結論

    チラシ配布調査やヨシ刈り参加者へのアンケート調査より、効果的な広報の方法や広報を行うべき 場所を明らかにすることができた。 また、情報システム「佐鳴湖グループ」を構築することにより、様々な立場からの情報発信や各活動間での 情報共有が可能になったと考えられる。 今後の課題として、各コミュニティサイトでのユーザ登録が別であること、 運営に関して、サイト管理担当者が交代する場合に管理のノウハウを引き継ぐことができるような対策を 検討する必要がある。 また、主な利用対象者である佐鳴湖NW会議メンバーへ積極的な利用を促進していく必要がある。
    謝辞

    本研究を進めるにあたり、ご指導を賜りました前田恭伸准教授に感謝の意を表し、ここに厚く御礼を申し上げます。 また、共同研究者である森保文主任研究員(国立環境研究所 社会環境システム研究領域)、 淺野敏久准教授(広島大学 総合科学研究科)、犬塚裕雅理事(特定非営利活動法人 CoCoT)、 伊藝直哉主任研究員(株式会社インテージ)、杉浦正吾氏(環境カウンセラー)にはご助言や貴重な情報を賜りました。 厚く御礼を申し上げます。 また、本研究を進めるにあたり、佐鳴湖ネットワーク会議センター会議、佐鳴湖ネットワーク会議、 浜松環境ネットワークには様々なご支援をいただき、厚く御礼申し上げます。 最後になりましたが、様々な手助け、ご助言をいただいた静岡大学工学部前田研究室の皆様方に厚く御礼申し上げます。
    参考文献
    [*]森保文・森賢三・犬塚裕雅・前田恭伸・淺野敏久・杉浦正吾, ボランティア機会論に基づくボランティアの参加要因, 日本NPO学会第9回年次大会報告概要集, p79, 2007年

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