中野崇司

災害リスクコミュニケーションのための情報共有支援システムに関する研究

静岡大学工学研究科システム工学専攻 前田研究室所属
5073-0318 中野 崇司

 


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発表会資料
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リスク情報サイト横断連想検索システム リスク情報サイト横断連想検索システム

 


 

1. 研究の背景と目的

 現在、静岡県を中心とした「地震防災対策強化地域」では、東海地震の発生による相当な被害が想定されている。静岡県島田市では、この震災による被害の軽減のために、地震災害をはじめとする地域リスクに対して、リスクマネジメントやリスクガバナンス(多様な主体によるリスクコミュニケーションを通じたリスクの協働統治)の必要性が指摘され、防災対策をはじめとした数々の取り組みが行われている。
松田(2005)は、地域リスク軽減のための情報共有や、地域活性化について研究を行っている「eコミュニティしまだ」での情報共有の課題を指摘した。そこで、投稿されるブログ記事間・コミュニティ間の関係を可視化することによって、記事やコミュニティを結びつけることができるとの考えから、可視化による情報共有支援を提案し、松田(2007)は「ブログ記事共有支援システム」を開発・公開した。課題としては、より人々の要求に合ったシステムに改善し、情報共有支援の可能性をより高いものにすることが必要である。
そこで、本研究では松田のシステムを再設計・再構築し、災害リスクコミュニケーションにおけるより高度な情報共有支援を目的とする。
研究方法は、eコミュニティしまだの現状と現行システムについて課題を分析し、さらに現行システムについて利用者のレビューを受け、対応を検討する。これに基づいてシステムを再設計・再構築を行う。

 

2. eコミュニティしまだ

 eコミュニティしまだは、地震リスクをはじめとした地域の様々なリスクを管理・軽減するための情報共有のあり方や、地域コミュニティの活性化について調査・研究のために開設されたコミュニティサイトである。島田市と独立行政法人防災科学技術研究所の共同研究で行われてきたが、今年度より防災科学技術研究所の関与がなくなり、地元企業が運営している。これに伴い、各コミュニティを支援することによる地域活性化の重視や外部からのブログを取り入れるなど方向性が変化している。現行システムもこれに対応した設計が必要である。特に、防災面での利用が減少しているので、災害リスク情報を取り込む必要もある。

 

3. 現行の情報共有支援システム

 松田は、eコミュニティしまだの記事の類似関係やトラックバックを指標に可視化を行っている。キーワードや記事から、これに類似する記事を可視化させることで、記事やコミュニティのつながりを示している。

図1
図1:松田の情報共有支援システム

図1は松田のシステムである。システムは、ユーザインタフェースを持つクライアントと、データ処理を行うサーバで構成されている。入力されたキーワードなどの情報はサーバに受け渡され。連想計算を担う汎用連想計算エンジンGETA で類似する記事を計算する。計算から求められた記事と関係性を、ネットワーク図を生成して可視化するTouchGraphで記事グラフとしてWeb ブラウザに表示する。ノードには記事タイトルを表示し、類似関係とトラックバックの2種類の枝を生成し、記事に関する情報としてコミュニティ名と作成日も表示する。また、TouchGraphを操作することで記事本体を閲覧することができる。
TouchGraph は、グラフィックベースでデータを表示するオープンソースのJavaプログラムである。Java appletとしてWebブラウザで表示し、ユーザは記事グラフに対して操作を行うことが可能である。また、GETAは、大規模かつ疎な行列を扱うサーバサイドの計算エンジンである。GETAは、Perl モジュールが用意されているためCGIを用いてGETAの計算結果を動的にWeb ページへ反映することができる。GETAが計算に用いるデータは、WAM(Word-Article Matrix)と呼ばれる行列形式のデータである。行に文書、列に単語が割り当てられ、行列の要素は行(文書)における列(単語)の出現回数を表している。
記事データは、eコミュニティしまだから配信されるRSSを取得することによって収集し、GETAで扱うデータ形式に変換・保存される。これら収集から保存までの一連の流れは、シェルスクリプトによって1回/日実行される。

 

4. 情報共有支援システムの再設計・再構築


4.1 要求分析

 3章で示した情報共有支援システムを使用し、利用者へのインタビュー調査を行い、KJ法で分析を行った。この結果から情報共有支援システムの改善要素として、システムの入り口の見直し、活用方法の例示、視認性・操作性、関連キーワードの表示、検索条件が挙げられた。

4.2 再設計・再構築

 2章や4.1節の分析に基づいて、システムの再設計・再構築を行う。

図2
図2:情報共有支援システムのUI

本システムはユーザが利用する前に、別ページに設けられた説明ページを通ってからシステムのUI(図2)にたどり着くページ構成になっている。他に活用方法を例示したページと本システムで検索可能なWebサイト一覧を示したページがある。UIでは、検索フォームにキーワードを入力あるいは検索結果から得られたキーワードリストの単語を選んで検索を行う「単語→記事連想検索」、また検索フォームに記事URLを入力、あるいはTouchGraphから記事を選んで検索を行う「記事→記事連想検索」がある。
検索フォームの下には、キーワードや記事に関連するキーワードを表すキーワードリストが表示される。左上に行くほど関連の高いキーワードになっている。また記事グラフを生成するTouchGraphは、ノードと枝で構成され、表示されるノードはGETAによって計算された類似度が高い記事、最大30件である。枝は4種類で構成され、うち1つはトラックバックであり、赤色で表される。類似関係の枝は。近接度によって3段階(紺色、青色、水色)に分けられる。枝は、全てのノードが連結するまで生成される。

図3

記事データは、eコミュニティしまだに加え、災害リスク情報を持つ3つのサイトを導入し、拡大した。RSSを配信しているサイトに関しては1回/日で取得し、その他のサイトはhtmlを取得する。

 

5. 結果および考察

図3
図3:【東海地震】で検索した結果

図3は、キーワード「東海地震」で検索した結果である。 入力したキーワードに最も類似度の高い記事として、①の記事が選ばれた。この記事は、新たに追加した災害リスク情報サイトの記事であり、東海地震の訓練についてかかれたものである。他の記事を見ても災害リスク情報の記事である。②には入力したキーワードから検索されたキーワードのリストが表示されている。
続いて、キーワードリストの中からこの検索結果で関連の深い単語を選んでNOT検索を行った(図4)。キーワード入力の場合、「‐(半角ハイフン)」をつけることで、NOT検索を行うことができる。

図4
図4:NOT検索を行った結果

③は「ある中学生との会話から」という記事であり、他の記事ともあまり関係は強くない。しかし、タイトルからはわからないが、記事の投稿者が中学生と話したときに得られた防災への気付きについて書かれている。NOT検索を行うことによって、他の記事に埋もれそうになっていた記事を見つけることができた。
このようにシステムを利用し、以下の結果を得た。記事グラフだけでなく、キーワードリストを使って、その記事グラフ全体がどのようなキーワードによってつながっているのかを知ることで、記事グラフに出てきた記事全体の話題の傾向を知ることができる。その上で。さらに絞り込んで検索するときには、どんなキーワードに注目して、それをさらに検索条件として追加するのか、あるいは検索対象から外すのか考えることができ、検索の幅を広げている。また、災害リスク情報を含むWebサイトを横断した検索を行うことができ、eコミュニティしまだだけでは気付かない災害リスク情報を提供することができたと考えられる。以上から今回の再構築によって、より高度な情報共有支援を行う基盤を示すことができたと考えられる。

 

6. 結論

 本システムは、要求分析の結果をもとに再設計・再構築を行った。人々の要求に合ったシステムすると共に、新たに災害リスク情報サイトを取り込むことによって、eコミュニティしまだだけでは気付かない災害リスク情報を提供でき、複数のWebサイトを横断した災害リスク情報の可視化が達成された。利用者がいろいろな視点から災害リスクを考えることができるきっかけを作ることができたと考えられる。

今後の課題

記事グラフの視認性や操作性、別の検索条件の設定など、要求分析の中で改善できていない課題もある。これらを改善することによって、利用促進につながると考えられる。また、災害リスク情報については、Webサイトにpdf形式などの電子データで掲載されている情報も多くあり、これらを取り込むことも検討が必要だろう。

 


eコミュニティしまだ
GETA 「汎用連想計算エンジン(GETA)」は、情報処理振興事業協会(IPA)が実施した「独創的情報技術育成事業」の研究成果です。