山中 敏

PRTRデータを用いた化学物質のリスクアセスメント

静岡大学システム工学科4年 前田研究室   山中 敏

 

1.はじめに

現代の我々の文明は、産業だけでなく日常生活においても化学物質が不可欠な存在になっている。

人間社会は、その恩恵を受けている一方で、人体や生態系は、製品そのものまたは製品のライフサイクルの過程で発生する有害な化学物質を、

大気や、水などのさまざまな媒体を介して、摂取や、暴露という形で体内に取り込み、影響を受けるという可能性(リスク)を抱えている事実は否定できない。

個々の化学物質に対して行われてきた化学物質管理に加え、平成13年4月より、

PRTR法が施行されたことで多くの有害化学物質を包括的な管理する体制(PRTR制度)を持ち、

それにより、地域の環境汚染を総合的に評価することが可能になった。

本研究では、平成13年度、14年度のPRTRデータを用いてPRTR法が施行された2年の静岡県の対象化学物質による環境リスクを評価することを目的とする。

なお、本研究では、環境リスク評価ソフトとして「ChemPHESA21」(日本化学工業協会)というコンピュータプログラムソフトを使用する。

 

2.環境リスクアセスメント

環境リスクアセスメントの手順の流れを図1に示す。

 

図1.リスクアセスメントのプロセス

ハザード同定で、対象とする化学物質のエンドポイントを決定し、暴露評価では、その化学物質の暴露量(摂取量)を推計する。

また、用量反応評価では、暴露量や濃度と毒性作用の発現との関係を推定する。リスクの記述では、暴露評価と用量反応評価の結果から、リスクの有無を評価する。

 

3.SimpleBox2.0[1]

ChemPHESA21では、生態影響評価のプログラムにRIVMのSimpleBox2.0を用いている。

SimpleBoxは、大気、表層水、土壌、底質の4種類の環境媒体で構成される多媒体モデルであり、

化学物質の物性、反応性、気象及び環境特性データから

環境内での輸送、媒体間移動、分配及び分解過程の速度を推定して定常時の濃度を推定するモデルである。(図2)

 

図2Simplebox概略図[2]

 

本研究では、静岡県を一つの入れ子と考え、静岡県の地域データ(面積、人口、気温など)、

PRTR対象化学物質の排出量データ、物性データ(融点、沸点、分配係数、溶解度など)、

毒性データ(藻類、甲殻類、魚類のEC50、NOEC、LC50など)を入力し、

暴露評価でPEC(予測環境濃度)を、用量反応評価でPNEC(予測無影響濃度)を求め、

生態環境影響のリスク特性評価結果をハザード比(HQ)で表現する。


HQの値が、1未満であれば影響の可能性が少ない、1以上であれば影響の懸念があると判断する。

 

 

4.結果

リスク評価した物質数は、平成13年度が136物質、平成14年度が111物質である。

その中で、以下に挙げる8物質がHQが1以上であった物質である。

これらの物質は、静岡県の水生生物に対して悪影響を及ぼしている可能性がある。

 

政令番号 物質名称 使用用途
46 エチレンジアミン 加工剤(繊維防しわ剤、紙の湿潤強化剤)、農薬原料
71 o-クロロアニリン 合成中間体(ナフトールAB-BT、ASS)、架橋剤(樹脂用)、その他(医薬・農薬中間体原料)
137 1,3-ジクロロプロペン(別名D―D) 農薬(殺虫剤)
186 チオりん酸O,O-ジエチル-O-(6-オキソ-1-フェニル-1,6-ジヒドロ-3-ピリダジニル)(別名ピリダフェンチオン) 農薬(殺虫剤)
188 チオりん酸O,O-ジエチル-O-(3,5,6-トリクロロ-2-ピリジル)(別名クロルピリホス) 農薬
253 ヒドラジン 触媒(重合)、合成原料(農薬)、その他(水処理剤、ロケット燃料、還元剤)
291 6,7,8,9,10,10-ヘキサクロロ-1,5,5a,6,9,9a-ヘキサヒドロ-6,9-メタノ-2,4,3-ベンゾジオキサチエピン=3-オキシド(別名エンドスルファン又はベンゾエピン) 農薬(殺虫剤)
310 ホルムアルデヒド 合成原料(石炭酸系・尿素系・メラミン系合成樹脂、ポリアセタール樹脂、ビニロン、パラホルムアルデヒド)、農薬、その他(消毒剤、一般防腐剤)

 

5.結論

静岡県内でPRTR排出登録されている化学物質の中で水生生物に対して悪影響を及ぼしている可能性のある物質が明らかになった。

特に農薬の水生生物に対する影響の可能性が大きいことを示すことができた。

今後、評価物質を増加や、陸生生物やヒトの健康影響など保護対象種の増加が、地域の環境リスクをより詳しく求めるためには必要である。

そのためには、有効な毒性データや物性データの入手数の増加や対象地域の縮小、エンドポイントの種数増加が必要となってくると考える。

 

参考・引用文献

[1]Brandes,L.A et al.(1981):SimpleBox2.0 :A Nested Multimedia Fate Model for the Evaluating the Environmental Fate of Chemicals. RIVM.Report No.719101029

[2]鈴木真起:静岡県における化学物質による環境リスクの評価,2001年度静岡大学卒業論文(2001.9)