栗田紀生

食品安全リスクに関する早期警告支援システムの構築

 

前田研究室 栗田紀生
  1. 背景と目的BSE、高病原性鳥インフルエンザのような食品安全の問題の発生、内閣府食品安全委員会 の設立など、近年食品安全の問題が社会的に注目を集めるようになってきている。このように新規の環境問題が顕在化する背景として、潜在的に存在していたリスクに対して、早い段階で、リスク回避・低減のための適切な対応が取られなかったことが考えられる。新規の環境問題のリスクを管理するためには、リスクを早い段階で発見し、早期警告を発することが必要である。そこで、このようなリスクへの気づきを支援するために、食品安全リスクに関する情報を収集、リスク情報のクリアリングハウスを構築し、それを土台とした食品安全リスクに関する早期警告支援システムをデザインすることを目的とする。 
  2. システムのデザイン早期警告支援の概念
    Wiedemannらは、リスクの早期警告システムは、3つのタイプのリスク、known risks, unclear risks, new risk fieldsに対応したものである必要があり、このうち本研究で取り上げている新規なリスク、new risk fieldsについてはシナリオ技術が有効であろうとしている 。本研究ではデータマイニングなどの技術を用い、リスク管理者がシナリオを考える際の支援を行なうシステムの構築を考える。 このシステムの基本的な考えとして、「現実にはリスクの可能性があるにもかかわらず、リスク管理者がそれを認知できないことがあるのは、原因から結果に至る経路をリスク管理者が認知できていないからではないか」という考えがある。例えば、図1のように、原因Aから事象B,Cを経て重大な結果Dをもたらすリスク事象の経路があるとする。リスク管理者がこの全ての経路を認知していれば問題はないが、仮に断片の経路ABと経路CDを認知していても、経路BCの認知がなければ、リスク管理者は結局このリスクを小さいと判断するであろう。このとき、経路BCの情報と既知の断片的知識AB、CDの組合せとして経路ABCDが成立することを知らせることができれば、これは新規リスクへの気づきを支援するシステムとなるであろう。 

    このようなシステムの実現を目指し次の二段階の作業を行なう。

    1.Web上から食品安全リスクに関する情報を集め、クリアリングハウスを構築する。
    2.クリアリングハウスの情報を土台とし、リスクの気づきを支援する早期警告支援システムを構築する。

    クリアリングハウス
    食品安全に関するクリアリングハウスの先行例としては、JIFSAN(Joint Institute for Food Safety and Applied Nutrition) の実績があるので、これを参考にする。JIFSAN運営のWebサイト、Food Safety Risk Analysis Clearinghouseでは、食品安全リスクについての情報の入手先を紹介し利用者が検索できるようにしている。検索の方法は、カテゴリー分類をたどるディレクトリ検索、キーワード検索の二つがある。また食品安全に関する分析ツールや、消費者向けの情報も提供している。 本研究におけるクリアリングハウスの役割は、早期警告支援システム運用のためのデータベース、食品安全リスク情報の提供、の二つがある。前者については、新規なリスクの気づきを支援するという観点から、食品安全に関する幅広い情報が必要であると考えられ、後者については、食品安全リスクについての優良な情報が必要であると考えられる。

    早期警告支援システム
    早期警告支援システムの仕組としてDualNAVI のようなシステムを考える。これは、図2のようなインターフェースを持つ連想的文書検索システムで、画面左側の文書リストと、画面右側の特徴語の連携グラフからなる。特徴語グラフは、どの単語とどの単語とが関連が深いかを示しており、操作に応じて再編成される。使用者は自分の関心に合わせてインターフェースを操作することで、自分がこれまで気づかなかった文書間の関係や、特徴語間の関係を知ることができる。このような仕組みを構築しリスク管理者の連想と認知を助けることを考える。

     

     

    システムデザイン
    本研究で考える「食品安全リスクに関する早期警告支援システム」は、早期警告支援システムと、食品安全リスクに関するクリアリングハウスの二つの部分からなる。早期警告支援システムは、クリアリングハウスに集められた食品安全に関する情報データベースを使用し動作するものとする。本研究では特にこのうち早期警告支援システムの基礎となる、クリアリングハウスの構築を行なう。

     

  3. 手法システムデザイン
    クリアリングハウスの構築は主に三段階に分けて行なった。以下作業の順に説明する。①カテゴリー分類とキーワード化

    クリアリングハウス構築のため、食品安全リスクに関するキーワードの選定と、カテゴリー分類を行なった。JIFSANのクリアリングハウスのカテゴリー分類、キーワードを参考にした上で、日本での状況に合わせたカテゴリー分類、キーワードを決定した。「リスク分析」、「食品」、「動物衛生」、「消費者情報」の4つのカテゴリーをさらにサブカテゴリーに分類し、合計65個のキーワードを選定した。

    ②プログラムによるクリアリングハウス構築

    クリアリングハウスの構築に関しては、perlによるプログラムを用い、半自動的に行なった。構築の作業は大きく分けて、食品安全リスクに関する情報を集める情報収集段階と、集めた情報を処理するデータ処理段階に分かれる。各段階でプログラムを作成し、プログラムにより作業を実行した。構築作業の流れを以下の図3に示す。

    ③クリアリングハウスのコンテンツ作成

    プログラムにより自動構築されたhtmlファイルを、ユーザがカテゴリー分類から選択できるようにするために、htmlを用いて、食品安全リスクに関するクリアリングハウスのコンテンツを作成した。また、食品安全に関わる組織、団体へのリンク集、Namazu によるサイト内キーワード検索のコンテンツをそれぞれ作成、追加した。図4にクリアリングハウスの実際の画面を示す。

     

     
  4. 結論と課題本研究では食品安全リスクに関する早期警告支援システムのシステムデザインと、食品安全リスク情報のデータベース機能を持つ、食品安全リスクに関するクリアリングハウスの構築を行なった。またクリアリングハウスの構築に関しては半自動的に行なえるようシステム化を行なった。
    本研究での課題としては以下のようなものがある。

    • 食品安全に関する情報を提供しているが、一般消費者にとって使いやすいサイトにするためには、インターフェースを工夫し、情報の見せ方を考える必要がある。
    • クリアリングハウス構築に使用したプログラムは、多数のプログラムを連結されて動作しているため、処理体系が複雑になり実行速度も遅くなっているため、プログラムを簡略化し使用しやすいものとする必要がある。

参考文献

  • 内閣府食品安全委員会, http://www.fsc.go.jp/
  • P. Wiedemann, C. Karger, and M. Clauberg: Early Risk Detection in Environmental Health, Environmental research plan of the Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation and Nuclear Safety, R+D-Project 200 61 218/09, Feb. 2002.
  • JIFSAN , Food Safety Risk Analysis Clearinghouse  http://www.foodriskclearinghouse.umd.edu/
  • DualNAVI_info , http://bace.hgc.jp/dn_intro/
  • Namazu, 全文検索システムNamazu, http://www.namazu.org/