栗田紀生

 

リスクマネジメントの具体事例調査と
そのデータベース化

前田研究室 栗田紀生


1.はじめに

今日、深刻化する環境問題解決のため、様々な角度からの環境問題への取り組みがみられる。一つの取り組み例として、 日本リスク研究学会メンバー参加による「環境リスク診断、評価及びリスク対応型(risk-based)の意思決定支援システム」*1では「環境リスク」という観点から環境問題解決に取り組んでいる。 このような環境リスクに対する取り組みの中で、環境リスクマネジメント(以後RMと表記)に関する研究もなされてきている。しかし、「リスク」という概念は理解が難しく、RMに興味を持つ者が、 RMを理解し、実践するためには、定義や手法といった情報と合わせて、RMの具体事例を知る事が必要であると考えられる。また、RMをこれから知ろうとする者にとっても、RMの具体事例を知る事は、 RM理解への近道となるであろう。そこで、本研究ではRMの様々なケースの具体事例を調査し、分類・データベース化することを目的とする。

2.環境リスクマネジメントとは

環境リスクマネジメントとは、「人間の健康や生態系に対するリスクを削減、未然に防止するための対策を模索・実施すること」であり、その目標は、「様々な社会的背景を考慮しながら、科学的に妥当で費用対効果の優れた一連の行動を実施すること」である。
また、RMを大きく分類すると、行政が行うRMと、企業が行うRMに分かれ、前者は地域の環境問題に対するリスクを扱い、多くの関係団体が関与することが多い (例:化学物質の適正管理、事業者への監視・指導等)。後者はその企業が行う事業について現れるリスクを扱うものである(例:土壌・地下水汚染対策、PRTR、ダイオキシン対策等)。 なお本研究では、上記2種類以外のRM(市民におけるRM等)をその他のRMとして扱う。

3.RM事例データベース

 

  • 3-1.RM事例調査:RM事例調査として、主に文献調査とインターネットによる調査を行った。
  • 3-2.RM事例データベース:RM事例データベースはhtmlファイルで構成し、トップページより、RMの種類、分類、事例一覧表、各事例詳細、とリンクをたどることで、利用者が必要としている事例を検索できる構成とした(図1参照)。 またトップページに、キーワードによる事例検索が可能な、全文検索システムNamazu*6を導入した。

図1
4.結果と考察

本研究の調査により集められた事例の数は以下の表1に示すとおりである。

 

表1:本研究により集められた事例の数

企業におけるRM事例 行政におけるRM事例 その他のRM事例 合計
文献調査 10 11 2 23
インターネットによる調査 61 16 1 78
合計 72 27 3 101

 

本研究により集められた事例の分析と比較から以下の事が考察される。

 

  • 企業におけるRM:
    化学物質排出削減など、直接的なリスクの低減・回避を行っているが、自社責任で、環境問題が起こった際に発生する企業イメージの低下や罰金・罰則などの派生的なリスクを回避することをより重要視していると考えられる。
  • 行政におけるRM:
    化学物質の使用・排出制限などにより、企業に対する規制を行い、企業のRMを促進する役割を果たしている。
  • その他のRM:
    市民が主体となり行うRMがある。市民が積極的にRMを行った例は少なく、積極的な市民のRMは、健康被害を受けるなど、自分に対して直接影響があった場合に限られている。

また、その他のRMを市民のRMと考えた場合、企業、行政、市民の3つの主体が考えられる。本研究により集められた事例から以下の図2、3のようなそれぞれの関係が考えられる。

 

図2
図2:事前対策
 図2のようなリスク事象が起こっていない状態では、行政は各種環境法規などの制度的対策を企業に対して行い、企業はそれに対応するため、技術的な対策を行っている。また、緊急時に備えて、訓練などの緊急時対策を行っている。 この状態では、市民は身近にリスクを認識していないため、市民の積極的なRMはほぼみられない。ただし、廃棄物処理場の建設などで、将来自分にリスクが発生することが比較的容易に予想される場合、処分場建設反対などの対策をとることが考えられる。

 

図3
図3:事後対策
 図3のようにリスク事象(=環境問題)が起こった場合には、リスク事象を起こした主体が中心となり、緊急時対策と復旧対策が行われる。ある企業が運営する工場が、周辺地域に大気汚染問題を引き起こしたと仮定した場合、企業は緊急時対策と復旧対策を行う。 行政は企業に対して、環境改善の行政指導を行う。また、発生したリスク事象により、市民の健康や地域の環境に被害が出た場合、市民によるRMとしては、企業や行政に対して情報公開請求や訴訟を行うといったRMの手段が考えられる。

5.結論

本研究は、RM理解の促進と、RM実施の実態の把握において有効であると考えられる。
今後の課題としては、事例の種類に偏りが見られるため、その偏りをなくすための異なる情報源からの事例調査、事例データベースのプログラム化が挙げられる。

 


参考文献

*1  盛岡通他:環境リスクの診断・評価およびリスク対応型(risk-based)の意思決定支援システムの構築.http://risk.env.eng.osaka-u.ac.jp/ ,2003年
*2  根本和泰:環境リスク管理入門.白桃書房, 1999年.
*3  三菱総合研究所政策工学研究部 編:リスクマネジメントガイド. 本規格協会, 2000年.
*4  (有)地球環境ネット発行:GREEN REPORT. 10月号-pp61 ,11月号 -pp70, 2002年.
*5  環境goo:環境報告書データベース. http://eco.goo.ne.jp/env_report/index.html,2003年.
*6  Namazu Project:全文検索システム Namazu. http://www.namazu.org/,2002年.